HDRS(ハイブリッド拡散反射分光法)の原理とISO 23698:2024対応:OL770・Gamma Scientific機器による実装ガイド

JIS Q 17025(ISO/IEC 17025)認定校正機関

HDRS(Hybrid Diffuse Reflectance Spectroscopy)は、皮膚上のDRS(拡散反射分光)によるUVA吸収特性と、PMMAプレート上の薄膜分光(in vitro)によるUVB〜UVA吸収特性をハイブリッド統合し、SPF・UVA-PF・クリティカル波長を非侵襲で推定する新手法です。ISO 23698:2024はこの手法の装置・手順・計算を規定しました。本稿では、規格の要点を押さえつつ、OL770シリーズやGamma Scientific計測ソリューションを中心に、実務での装置選定・校正・データ処理を体系化します。

この記事の監修

山西 幸男

旭光通商株式会社 取締役

山西 幸男

光学技術製品の国際貿易におけるリーディングエキスパートとして、多くの日本企業の海外市場への進出をサポートしてきました。光安全性リスク評価の分野においても深い知識を有し、製品の国際基準適合性を確保するためのコンサルティングサービスを提供しています。

1. HDRSとISO 23698:2024の位置づけ

1.1 背景と目的

  1. 従来のin vivo紅斑法(ISO 24444)に比べ、被験者の紫外線曝露を大幅に抑えつつ、SPF・UVA-PF・CWを評価できる非侵襲アプローチ。
  2. DRSでUVA(320–400nm)を、in vitro薄膜分光でUVB〜UVA(290–400nm)を取得し、融合吸収スペクトル AHDRS(λ)を構築。
  3. 結果として、SPFHDRS・UVA-PFHDRS・クリティカル波長(CW)を算出し、実使用に近い保護性能を短時間で推定する。

1.2 用語と計算指標(抜粋)

  • ADRS(λ):DRS由来のUVA吸収スペクトル(320–400nm)
  • Avt0(λ), Avt1(λ):in vitro(前/後照射)吸収スペクトル(290–400nm)
  • SRPD(λ):前後照射の比による光劣化補正
  • λHW:ハイブリッド結合波長、CW:吸収面積90%に達する波長

2. 試験原理と測定フロー

2.1 DRS(in vivo)取得:UVA帯

  1. 光源:短アークキセノン推奨(290–400nm連続光)。皮膚表面の照度・積算線量は規格の上限内に管理。
  2. 探触子:UV級シリカの二叉ファイバー(励起/受光)と、環状またはランダム化のファイバー配列。
  3. 検出器:冷却PMT推奨(S/N向上)。取得した皮膚リミッタンスからADRS(λ)を算出。

2.2 in vitro薄膜分光:UVB〜UVA帯

  1. 基板:粗面PMMAプレートに規定量のサンプルを塗布し、膜厚均一化。
  2. 前照射/後照射:太陽光シミュレータ等で管理線量を照射。前後のAvt0(λ), Avt1(λ)からSRPD(λ)を導出。
  3. 結合:ADRS(λ)とのスケーリング+結合(λHWによりAHDRS(λ)を構築。

2.3 指標算出と出力

  1. AHDRS(λ)を基にSPFHDRS・UVA-PFHDRS・CWを算出(光劣化補正を反映)。
  2. 必要に応じてフォトスタビリティ評価(UVA-PFの初期値/補正後の比較)。

3. 機器選定と校正の実務

3.1 in vitro分光(ISO 23698・附属書準拠)

  1. OL770 UV/VIS(200–780nm):CCDアレイ分光放射計。高分解能(~0.4–0.6nm)、NISTトレーサブル校正、短時間測定により、前/後照射スペクトル取得とSRPD(λ)計算を効率化。
  2. 積分球・標準光源との組み合わせで、波長・放射照度・透過率の校正を一貫管理。

3.2 DRSシステム(in vivo)

  1. 光源:短アークXe(年1回の分光放射束確認)。照射上限(照度・線量)を遵守。
  2. 光学プローブ:UVシリカ二叉ファイバー、束径・繊維数・配列比を規格条件に適合。
  3. 検出器:冷却PMT推奨。モノクロ/ポリクロのどちらの方式でも規格の感度要件を満たす構成が望ましい。

3.3 Gamma Scientificの活用ポイント

  1. GS-1290などの高ダイナミックレンジ分光放射計を補助計測に適用:光源の分光出力確認反射率やアクセサリのスペクトル特性校正チェーンの健全性監査に有効。
  2. 多様な反射・表示計測ソリューション(積分光学、NVIS等)を有し、反射率・迷光の評価や試験環境の最適化に応用できる。

3.4 トレーサビリティと不確かさ

  1. 校正はISO/IEC 17025に整合。波長・放射照度・透過率それぞれの不確かさを見積もり、合成不確かさとして報告書に明記。
  2. PMMAの粗さ・塗布量・乾燥条件は不確かさ主要因。塗工テンプレートや環境管理でロット間の再現性を担保。

4. 試験設計のベストプラクティス

  1. 被験者の曝露管理:非紅斑域の低線量・短時間測定を徹底(安全・倫理面の改善)。
  2. ハイブリッド結合の健全性:λHW近傍での滑らかさ・単調性・微分連続性を点検。
  3. フォトスタビリティ:UVA-PF初期値と補正後の乖離を定量的に管理。
  4. バリデーション:参照フォーミュラでSPF/UVA-PF/CWの再現性を定期確認。

5. よくある落とし穴と対策

  1. PMMA粗さ・塗布ムラ:半乾燥/過乾燥でスペクトルが不安定 → 規格の塗布・乾燥条件を再現し、面内均一性を顕微測定で確認。
  2. 光源ドリフト:キセノンの経時変化 → 分光放射束の年次トレース短期安定性チェック(温調)を実施。
  3. DRSプローブの迷光:皮脂・角質の影響 → 測定前クリーニングと基礎皮膚スペクトルの再取得。
  4. 結合スケール不整合:スケーリング因子の算出誤差 → 最小二乗フィット残差解析でλHW近傍を監査。

6. HDRS試験の機器構成例(要件→推奨機器)

ISO 23698の要件 役割 推奨機器・備考
in vitro UV分光(290–400nm) 前/後照射スペクトル、SRPD(λ) OL770 UV/VIS(200–780nm、短時間測定・高分解能)
PMMA粗面プレート 薄膜形成基板 ISO規定の粗さ・前処理を満たすプレート(附属書仕様)
DRS光源・光学プローブ・検出器 UVA吸収(320–400nm) 短アークXe+UVシリカ二叉ファイバー+冷却PMT(規格の線量・配列要件に整合)
補助分光・反射率評価 光源出力確認、反射率・迷光評価 Gamma Scientific GS-1290や反射測定ソリューションを活用
校正・トレーサビリティ 波長・放射照度・透過率 ISO/IEC 17025整合のNISTトレーサブル校正チェーンを維持

7. 実装フローとドキュメント

  1. 装置適合性の確認:波長・分解能・線量上限・プローブ仕様を規格要件に照合。
  2. 試験計画書:サンプル配列、前後照射線量、λHW決定法、合否基準、統計処理を明記。
  3. 測定・解析:OL770でAvt0(λ)/Avt1(λ)→DRSでADRS(λ)→スケーリング→AHDRS(λ)→SPF/UVA-PF/CW。
  4. 報告書:不確かさ・装置校正証跡・プローブ写真・スペクトル重ね書き図を添付。

8. まとめ

ISO 23698:2024に準拠したHDRSは、短時間・低曝露・高再現で日焼け止めの保護性能を定量化します。in vitro側はOL770で高速・高精度に、in vivo側は規格要件を満たすDRSシステムでUVA吸収を取得。さらにGamma Scientificの高ダイナミックレンジ分光と反射計測ソリューションを補助計測に組み合わせれば、トレーサビリティの強化と不確かさ低減が期待できます。製品ページへの導線と併せ、研究・量産・当局対応の基盤を強固にしましょう。


参考文献

専門用語の解説

DRS(Diffuse Reflectance Spectroscopy)
皮膚内部で散乱・再放射されたUVA成分を検出し、皮膚上のサンスクリーンの有效吸収を推定する分光手法。
SRPD(λ)
前/後照射の吸収スペクトル比。光劣化(フォトデグラデーション)補正に用いる。
CW(Critical Wavelength)
290–400nmの吸収面積の90%に達する波長。広域UVA保護の指標。

最短7日間で校正完了光安全性の測定のご相談はこちら

TEL03-6371-6908 (平日9:00 ~ 17:00) お問い合わせフォーム
Translate »