JIER-138で読み解く「光害(光公害)」最新動向——日本のガイドラインとCIE 150:2017の整合、UFR/ULR、条例対応まで完全解説

JIS Q 17025(ISO/IEC 17025)認定校正機関

欧州32カ国の光害規制レビューを踏まえ、照明学会の委員会は2024〜2025年度に国内外の制度・基準を体系的に整理し、2025年に報告書「JIER-138 国内外の光害規制に関する研究調査委員会報告書」を公表した。本稿では同報告の要点とともに、環境省「光害対策ガイドライン(令和3年改訂)」およびCIE 150:2017の枠組み(環境区分E1〜E4、ULR、UFR)を整理。LED普及による新課題(ブルーライト、過剰照明、上方漏れ光)を前提に、日本の現行ガイドライン中心の運用と、海外の法制化動向を比較。実務者が今日から適用できる配光・運用・実測手順、そして次年度以降に想定される“暗い自然環境を守る照明指針”策定への論点を提示する。

この記事の監修

山西 幸男

旭光通商株式会社 取締役

山西 幸男

光学技術製品の国際貿易におけるリーディングエキスパートとして、多くの日本企業の海外市場への進出をサポートしてきました。光安全性リスク評価の分野においても深い知識を有し、製品の国際基準適合性を確保するためのコンサルティングサービスを提供しています。

1. 照明学会の報告書(JIER-138)の位置づけ

目的 欧州32カ国の光害規制を横断比較(目的・方法・規制値・課題)。
比較 スロベニア・フランスは法制化、日本はガイドライン中心で拘束力が弱い。
論点 LED普及によるブルーライト・過剰照明・上方漏れ光。
出口 次年度以降「暗い自然環境を守るための照明指針」策定を目指す。

1.1 要約(実務で見るべき点)

制度マッピング
環境区分/侵入光指標(Ev, I, Lb/Ls, ULR, UFR)。
測定の要点
発光面サイズ、距離幾何、窓面高さ1.5m基準。
実務提案
狭配光・遮光フード、減灯・色温度管理、器具仰角0°。

2. 光害対策ガイドライン改訂検討(平成29年度報告の系譜)

2.1 CIE 150:2017の枠組み(E0/E1–E4・ULR・UFR)

環境区分
E1 暗域 E2 郊外 E3 都市周辺 E4 繁華街
侵入光指標
最大鉛直面照度(Ev)/最大光度(I)/表面輝度(Lb/Ls)
上方光
ULR=器具光束に対する上向き比
UFR=実上方光束 ÷ 理想反射上方光(過剰照明の検出)

2.2 日本ガイドライン(令和3年改訂)の指針値

PDF#2 ガイドライン構成
環境省ガイドラインより引用

※ E0はCIEの“保護対象”に対応。国内運用はE1〜E4を主として参照。

区分 最大光度 I(cd)
減灯前 / 減灯後
最大鉛直面照度 Ev(lx)
減灯前 / 減灯後
表面輝度 Lb/Ls(cd/m²)
代表上限
ULR 上限
E1(自然公園等) 2,500 / 0 2 / 0 <0.1(建物・減灯後0)/ 50(看板)
0.0%
E2(郊外住宅地) 7,500 / 500 5 / 1 5 / 400
2.5%
E3(都市部住宅地) 10,000 / 1,000 10 / 2 10 / 800
5.0%
E4(繁華街) 25,000 / 2,500 25 / 5 25 / 1,000
15%

2.3 LED時代の新課題(観点の整理)

スペクトル
短波長成分↑ → 散乱・生態系・生体リズムへの懸念。
過剰照明
高効率化で“必要以上”に。UFRで検出・是正。
眩しさ
配光制御・遮光フード・器具仰角0°が有効。

2.4 実測評価の難しさ

  • 発光面サイズ・配光により近距離測定がブレる。
  • 距離・測定点高さ・入射角を共通化(窓面高さ1.5mなど)。
  • UFR導入時は「設計維持照度の根拠」「反射率前提」を明示。

3. 最新動向(照明学会誌・年報 2023–2025)

景観と抑制の両立
ファサード輝度上限・演出時間制御・看板の点滅/走行抑制。
狭配光・高効率光学系
「必要なところだけ照らす」設計へ。カットオフ強化。
スマート運用
減灯・人流連動・イベント時のみ点灯。
規格改正
JIS Z 9126 等でCIE整合が進展。

4. 調査で明らかになった課題(要約)

  1. 日本はガイドラインベースで法的拘束力が弱い。
  2. LEDの過剰使用で夜空輝度が増加。
  3. CIE(特にUFR、E区分)との整合が課題。
  4. 実測評価プロトコルの標準化が不十分。

5. 実務の処方箋(設計・調達・運用)

設計
目標維持照度・UGR/GR・演色・色温度を要件化。
UFR ≤ 1 を設計目標に。
機器・配光
ULR=0%(E1/E2)を優先、遮光フード、狭配光、仰角0°。
運用・保守
減灯時刻を明文化、人流連動、定期点検で配光ズレ是正。

5.4 簡易検証プロトコル

項目方法合否の目安
鉛直面照度 Ev 地上1.5m、窓面方向。減灯前後を測定。 E区分の上限以下(E1は減灯後0lx)
最大光度 I 器具データ(IES/LDT)確認、現地は仰角0°を確認。 類型ごとの上限以下
ULR/UFR 設計計算で事前評価、竣工サンプルで整合確認。 ULR ≤ 上限、UFR ≤ 1 を目安

6. 事例:条例と運用の実効性

自治体(例:長野県)の禁止・例外規定で上空漏れを抑制。景観照明は時間・季節限定で運用し、催事後は通常へ復帰。


7. まとめ

JIER-138は、日本の“任意ガイドライン中心”運用と国際整合(CIE 150:2017)をつなぐ基盤。LED時代は ULRゼロ化UFRでの過剰照明の可視化E1〜E4に沿った設計・運用・測定の一体化が要です。


参考文献(サイト名とURL)

最短7日間で校正完了光安全性の測定のご相談はこちら

TEL03-6371-6908 (平日9:00 ~ 17:00) お問い合わせフォーム
Translate »