JIS C 6802:2025改正の要点と実務対応|IEC 60825-1整合ガイド

JIS Q 17025(ISO/IEC 17025)認定校正機関

JIS C 6802:2025(レーザ製品の安全―クラス分け及び要求事項)は、IEC 60825-1:2014に整合しつつ、 参考附属書(JA/JC/JD)でIEC/TR 60825-14:2022(ユーザーズガイド)の考え方を反映しました。 公示日は2025年8月20日。クラス分けの枠組み(1/1M/2/2M/3R/3B/4)と適用範囲(180 nm~1 mm)は継続ですが、 現場運用(教育、LSO、区域管理、記録)の解像度が上がっています。本稿では「改正の要点」「手順」「チェックリスト」「FAQ」を体系的に整理します。

この記事の監修

山西 幸男

旭光通商株式会社 取締役

山西 幸男

光学技術製品の国際貿易におけるリーディングエキスパートとして、多くの日本企業の海外市場への進出をサポートしてきました。光安全性リスク評価の分野においても深い知識を有し、製品の国際基準適合性を確保するためのコンサルティングサービスを提供しています。

1 JIS C 6802:2025 改正の概要(レーザ製品の安全・IEC 60825-1:2014整合)

  • 公示:2025年8月20日(JSA掲載/JIS発行)。
  • 適用範囲:180 nm〜1 mmのレーザ放射を放出するレーザ製品に適用。
  • 大枠:クラス分け(1/1M/2/2M/3R/3B/4)と基本要求は継続。一方で運用・教育・書類化の充実が鍵。
  • 想定読者:製造者(設計・IFU・ラベル)、ユーザー(LSO/区域管理/MPE記録)、審査・監査担当。

※最終判断は必ず規格本文(最新の改訂票を含む)に従ってください。

2 附属書JA/JC/JDの要点(IEC/TR 60825-14:2022 反映)

2.1 教育・訓練とレーザ安全管理者(LSO)

LSOの任命、権限(停止・教育承認・区域許認可・事故審査)を明確化。役割と権限は文書で付与し、年次見直しを推奨。

2.2 リスク評価・インシデント対応・医学的監視

作業手順・ビーム経路・迷光・反射を含めたリスク評価を更新。インシデントの受付・是正・再発防止プロセスと医監の考え方を整理。

2.3 管理区域・インタロック・PPEの参考例

常設区域と一時区域の使い分け、入退管理、標識、インタロック点検、PPE選定の参考を体系化。

2.4 MPE(最大許容露光量)計算の考え方

波長域・暴露時間・観察条件(裸眼/光学器具/拡張光源)ごとの適用表・式、補正係数(例:Ca, Ce, Ct, C6)を明示し、根拠の再現可能性を重視。

3 レーザークラス分けとラベリング(1/1M/2/2M/3R/3B/4)

クラス別の代表リスクと必須コントロール、取扱説明書(IFU)・警告表示の要点を整理します。

クラス主要コントロール補足
1 / 1M / 2 / 2M 標識・教育、ビーム経路の最短化、基本遮光。1M/2Mは光学器具視認リスクに留意。 一般占有空間での誤用・光学器具視認を想定して確認。
3R / 3B LSO必須、区域化、入退管理、PPE、ビームストップ、調整時手順の分離。 来訪者・保守作業の手順書を別管理。
4 遮蔽・連動、安全監視、火災対策、厳格な訓練・監査。 迷光・反射・発火を含む総合管理が前提。

4 適合フロー(設計→評価→運用:チェックリスト)

  1. 危険源の特定:波長、出力(CW/パルス)、ビーム径・発散、観察条件。
  2. クラス判定・ラベリング:JIS C 6802の手順でクラス決定。表示・IFU整備。
  3. LSO任命・教育:停止権限・区域許認可・教育承認などの権限を文書化。
  4. 区域管理・技術的対策:常設/一時区域、標識、インタロック、ビームストップ。
  5. MPE評価・記録:波長域・暴露時間・補正係数を踏まえ、評価結果と根拠を記録。
  6. 監査・是正:点検・試験記録を年次でレビューし、継続改善。

5 改定前との比較(2014版・2018追補等 → 2025版)

項目改定前(〜2025改正前)今回改定後(2025版)
規格本体の枠組み 180 nm〜1 mmのレーザ製品の安全要求とクラス分け。IEC 60825-1:2014ベース。 枠組み継続。クラス体系・基本概念に大変更なし。
附属書(使用者への指針) 旧来のガイドをJIS独自附属書に維持。 IEC/TR 60825-14:2022の考え方を反映し、教育・LSO・区域・保守・MPE記録など実務を整理。
ユーザー向け情報提供 IFU中心(一般的対策が主)。 教育計画・区域運用・緊急時対応・測定/記録の粒度を向上。
MPE運用 定義・評価は従来通り。テンプレは各社設計。 前提・式・係数を明示して再現性ある記録を推奨。
実装の着眼点 クラス3R以上で区域化・PPE・手順分離。 保守・来訪者・一時区域など、事故起点になりやすい場面の整理を強化。

6 注意点(実務での落とし穴)

  • 「本体は不変」でも要求水準は据置きではない:クラスや数値が同じでも、教育・区域・記録の整備期待は上昇。IFU・ラベル・教育資料の更新を。
  • 附属書の位置づけ:参考扱いでも社内規程のベースに整合させると監査が円滑。条番号まで記録。
  • MPEの根拠不足:「結果のみ」は不可。波長域・t・適用表/式・補正係数と測定配置の再現情報を残す。
  • 一時区域の見落とし:据付・サービス・光学調整は臨時区域化・立会い・ビームストップを迅速に。
  • 来訪者・請負作業:教育未受講者の立入管理、鍵管理、低出力モード、インタロック試験の記録漏れに注意。

7 MPE計算テンプレ(ワークシート)

JIS C 6802および関連ガイダンスの該当表・式を参照して記入してください(SI単位系)。

例:λ=532 nm, CW, t=0.25 s, 小光源の仮定 → 可視域・網膜曝露の区分を参照し、必要な補正(例: C_a, C_t 等)を適用してMPEを決定。測定した放射輝度/照度と比較して適合性を判断。

8 よくある質問(FAQ)

8.1 クラスはどの手順で判定しますか?

波長・出力(CW/パルス)・ビーム径/発散・観察条件を特定し、該当する測定条件と限度(MPE)からクラスを導出します。IFU・ラベル要件も同時に見直してください。

8.2 LSOは誰を任命し、権限は?

部門横断で停止権限・教育承認・区域許認可・事故審査の権限を持つ責任者を任命。年次で教育と権限を更新します。

8.3 MPEはどの表を引用し、どこまで記録しますか?

波長域と暴露時間に対応する表・式を引用し、前提・補正係数・評価量・測定配置を可追跡に残します。

8.4 一時区域の要否判断とインタロック試験の扱いは?

据付・保守・調整等では一時区域化を原則。インタロックは点検周期・試験記録・是正のプロセスを文書化します。

9 用語解説(グロッサリー)

  • LSO(Laser Safety Officer):レーザ安全管理者。停止・教育承認・区域許認可・事故審査等の権限を持つ。
  • MPE(Maximum Permissible Exposure):最大許容露光量。波長域・暴露時間・観察条件に依存する限度値。
  • IFU(Instructions for Use):取扱説明書。ラベル内容と整合し、クラス別の注意・手順を含む。
  • 管理区域:レーザ危険が存在する区画。常設または一時的に設定し、入退管理・標識・PPEを適用。
  • インタロック:扉・カバー等の開閉に連動して発振を停止させる安全機構。
  • 拡張光源:網膜像が拡散/拡張する条件。観察条件により評価手順が変わる。

10 参考資料

12 まとめ

JIS C 6802:2025は、クラス分け等の枠組みは維持しつつ、使用者側の運用指針(教育・LSO・区域・記録)を最新化しました。 製造者はIFUとラベルの整合・改訂、ユーザーはLSO任命・区域化・MPE記録の体系化を優先してください。 保守・一時区域・来訪者対応は事故が起きやすい領域です。チェックリストとワークシートで可視化し、年次監査に組み込むことが、 最短距離の適合と安全文化の醸成につながります。

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