JIS C 6802:2025 改正ポイントと実務ガイド

JIS Q 17025(ISO/IEC 17025)認定校正機関

2025年8月20日、JIS C 6802(レーザ製品の安全—クラス分け及び要求事項)が改正されました。本改正は、適用範囲(180 nm〜1 mm)やクラス分けの基本枠組みを維持しつつ、現場で参照される使用者向けの指針や情報提供の整理が進んだ点が特長です。本稿では、設計・評価・表示・運用の各段階で押さえるべき実装ポイントを、チェック要素とワークシート(MPE計算テンプレ)で可視化します。特に教育・管理者(LSO)任命、管理区域、メンテナンス時の管理、MPE記録の扱いを、転記しやすいフォーマットで提示します。

この記事の監修

山西 幸男

旭光通商株式会社 取締役

山西 幸男

光学技術製品の国際貿易におけるリーディングエキスパートとして、多くの日本企業の海外市場への進出をサポートしてきました。光安全性リスク評価の分野においても深い知識を有し、製品の国際基準適合性を確保するためのコンサルティングサービスを提供しています。

改正の要点(現場で意識するところ)

  • 公示:2025年8月20日。改正対象に「JIS C 6802 レーザ製品の安全—クラス分け及び要求事項」。
  • 適用範囲:180 nm〜1 mmのレーザ放射を放出するレーザ製品。クラス分け(1/1M/2/2M/3R/3B/4)の枠組みは継続。
  • 実務整理:使用者向けの指針(教育、LSO、区域管理、保守作業、記録様式など)の整合を意識。

※最終的な要求・数値・表示は必ず規格本文・最新改訂票の原文に従ってください。

運用フローチャート(設計〜運用)

  1. 危険源の特定:波長、出力(CW/パルス)、ビーム径・発散、観察条件。
  2. クラス判定・ラベリング:JIS C 6802の手順でクラス決定。表示・IFU整備。
  3. LSO任命・教育:停止権限・区域許認可・教育承認などの権限を文書化。
  4. 区域管理・技術的対策:常設/一時区域、標識、インタロック、ビームストップ。
  5. MPE評価・記録:波長域・暴露時間・補正係数を踏まえ、評価結果と根拠を記録。
  6. 監査・是正:点検・試験記録を年次でレビューし、継続改善。

クラス別の典型コントロール

クラス主要コントロール補足
1 / 1M / 2 / 2M 標識・教育、ビーム経路の最短化、基本遮光。1M/2Mは光学器具下のリスク注意。 一般占有空間での誤用・光学器具視認を想定して確認。
3R / 3B LSO必須、区域化、入退管理、PPE、ビームストップ、調整時手順の分離。 来訪者・保守作業の手順書を別管理。
4 遮蔽・連動、安全監視、火災対策、厳格な訓練・監査。 迷光・反射・発火を含む総合管理が前提。

改定前との比較(概要)

項目改定前(〜2025改正前)今回改定後(2025版)
規格本体の枠組み 180 nm〜1 mmのレーザ製品の安全要求とクラス分け。2014版(以降の追補・技術的修正を含む)を基礎。 同枠組みを継続。クラス分け体系・基本概念は変更なし。
附属書JA(使用者への指針) 2005年版の「使用者への指針」を参考附属書として維持し、国内で参照可能な形で提供。 使用者ガイドの構成を刷新。教育・LSO・区域管理・保守時管理・MPE記録などの実務ガイダンスを整理(最新の国際ユーザーズガイドの考え方を反映)。
ユーザー向け情報提供 取説(IFU)における注意事項や一般的な管理策の提示が中心。 教育計画や区域運用、緊急時対応、測定・記録の粒度まで踏み込んだ参照を想定。IFUでの参照性向上が期待される。
MPE運用 MPEの定義・評価は従来どおり。テンプレや記録様式は各社設計。 評価・記録の“見える化”を推奨(本ページのワークシート例のように、前提・表式・係数を明示して残す)。
実装の着眼点 クラス3R以上での区域化・PPE・手順分離の強調。 保守・来訪者・一時区域など、実作業で起こりがちなケースの扱いを整理。

注意点(実務での落とし穴)

  • 「本体は不変」でも要求水準は据置きではない:クラス分けや数値が同じでも、ユーザー支援情報(教育、区域、記録)の整備期待は上がっています。取説・ラベル・教育資料の書き換えを検討。
  • 附属書の位置づけ:附属書は参考扱いでも、社内規程のベースとして整合しておくと監査対応が円滑。条文番号まで記録に残すのが吉。
  • MPEの根拠不足:「結果のみ」では不十分。波長域・暴露時間・適用表/式・補正係数を記録し、測定配置の再現情報を残してください。
  • 一時区域の見落とし:据付現場・サービス作業・光学調整時は臨時の区域化・立会い・ビームストップを速やかに実施。
  • 来訪者・請負作業:教育未受講者の立入管理、鍵管理、低出力モード、インタロック試験の記録が抜けやすい。

MPE計算テンプレ(ワークシート)

JIS C 6802および関連ガイダンスの該当表・式を参照して記入してください(SI単位系)。

例:λ=532 nm, CW, t=0.25 s, 小光源の仮定 → 可視域・網膜曝露の区分を参照し、必要な補正(例: C_a, C_t 等)を適用してMPEを決定。測定した放射輝度/照度と比較して適合性を判断。

チェック要素(記録様式の目安)

  • LSO任命書(権限:停止・教育承認・区域許認可・事故審査)。
  • 入口標識(クラス、波長、最大出力、PPE要件、連絡先)。
  • 一時区域の管理(可搬遮蔽、ビームストップ、立会い手順)。
  • MPE根拠の記録(表・式・係数、前提条件、測定配置の再現情報)。

まとめ

今回の改正は、クラス分け等の“本体の枠組み”は維持しつつ、使用者側の運用指針を最新化して実務の解像度を高めた点が要。製造者はIFUと教育資料の拡充、ユーザーはLSO任命・区域化・MPE記録の体系化を優先してください。保守・一時区域・来訪者対応は事故が起きやすい領域であり、チェックリストとワークシートで“見える化”して年次監査に組み込むことが、最短距離の適合と安全文化の醸成につながります。

参考資料

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