JIS C 7550改正と最新動向:ランプおよびランプシステムの光生物学的安全性を実務でどう適用するか

JIS Q 17025(ISO/IEC 17025)認定校正機関

LEDやUV光源の用途拡大に伴い、製品の光生物学的安全性(眼・皮膚への影響)をIEC 62471/JIS C 7550で適正に評価する重要性が高まっています。本稿では、JIS C 7550:2011の追補1(2014)による改正の位置づけと、2019年の制度改正に伴う名称読み替え、さらにIEC 62471-5(プロジェクタ)やIEC 62471-6(UVランプ製品)といった最新動向を踏まえ、実務者が迷いやすい「測定条件・判定ロジック・表示義務」の要点をチェックリストとともに体系的に解説します。評価対象のハザード、測定パラメータ、境界規格(レーザ JIS C 6802、IEC/TR 62778)との関係まで一通り押さえれば、設計段階でRG0/RG1を狙ったリスク低減が可能になります。

この記事の監修

山西 幸男

旭光通商株式会社 取締役

山西 幸男

光学技術製品の国際貿易におけるリーディングエキスパートとして、多くの日本企業の海外市場への進出をサポートしてきました。光安全性リスク評価の分野においても深い知識を有し、製品の国際基準適合性を確保するためのコンサルティングサービスを提供しています。

1. 改正の経緯と位置づけ

  1. JIS C 7550は国際規格IEC 62471の日本語JIS化であり、2011年に制定、2014年に追補1で一部改正されました。さらに2019年7月の制度改正により、前文を除き「日本工業規格」を「日本産業規格」に読み替えます(技術要求は継続)。
  2. 本稿の対象は非レーザ光源です。レーザ製品はJIS C 6802(IEC 60825-1整合)で管理され、分類・要求事項・表示が異なります。

1.1 国際規格との整合

  1. ベース:IEC 62471(2006)に準拠(光源/ランプシステムの光生物学的安全性)。
  2. ガイダンス:IEC/TR 62471-2(2009)は、製品固有規格に委ねられた「安全距離、ラベリング、使用者情報」等の運用指針を提供します。
  3. 縦割り規格:IEC 62471-5(2015)イメージプロジェクタIEC 62471-6(2022)UVランプ製品(UV-LEDを含む)の安全評価・リスクグループ・表示を規定します。

1.2 2014追補の要点(抜粋)

  1. 用語整理:露光時間、実効放射照度/輝度、露光許容時間など、評価に不可欠な用語の明確化。
  2. 冗長定義の削除:規格本体で用いない定義・他JISで定義済みの用語の整理。

2. 評価対象ハザードとリスクグループ(RG)

  1. IEC 62471/JIS C 7550は、200–3000 nmを対象に、眼と皮膚の光化学・熱ハザードを複合的に評価し、RG0(免除)/RG1/RG2/RG3に区分します。判定は最も高いハザード結果に従います。
ハザード 記号 主な波長域 主対象 備考
作用紫外線(アクチニックUV) ES 200–400 nm 眼・皮膚 有効重みS(λ)で実効化(時間依存)
近紫外(眼) EUVA 315–400 nm 角膜/水晶体リスク(時間依存)
青色光網膜 EB / LB 300–700 nm(主に400–500 nm) 眼(網膜) 小形光源は輝度(LB、大形は照度(EBで評価
網膜熱 LR 380–1400 nm 眼(網膜) 短時間パルスに注意
皮膚・眼の熱(IR) EIR / LIR 780–3000 nm 皮膚・角膜 近赤外の熱負荷

※小形/大形光源の切替は見かけ視角(α)で判断。αが所定閾値以下なら小形光源→輝度評価(L●)、超える場合は大形光源→照度評価(E●)が基本です。

3. 測定・判定の実務ポイント

3.0 動画で理解する実務フロー(お客様事例)

以下の動画(株式会社ラッシュカラーズ様 × 光学試験校正室)では、当社の光学試験・校正に関する取り組みと、お客様視点での活用イメージを紹介しています。本記事の第3章(測定・判定)および第6章(実務チェックリスト)と併せてご覧いただくと、JIS C 7550(IEC 62471)評価の全体像が短時間で把握できます。

この動画でわかること(例)

  • 光生物学的安全性評価で重要となる分光測定校正トレーサビリティの考え方
  • 測定幾何(距離・視野・見かけ視角α)の設計と、評価の再現性確保のポイント
  • 設計段階からRG0/RG1を狙うリスク低減(光学拡散・フィルタ・出力制御など)の具体例
  • 評価結果のラベリング/使用者情報への落とし込み方(取扱説明書、注意表示 等)

動画を見た後にやること

  • 第3章測定幾何・時間基準・パルス評価の節を確認し、自社製品に当てはめてチェック。
  • 第6章実務チェックリストで、設計→測定→表示の抜け漏れを確認。
  • UV製品の場合は4.2 IEC 62471-6の要点(UV-RG、ラベリング)を参照。
  1. 測定幾何:評価面(眼/皮膚)、視野角(受光立体角)、測定距離(設置/使用状態に基づく)を最悪条件で設定。プロジェクタなどは見かけの射出瞳位置・αの特定が必須。
  2. 分光測定:分光放射照度/輝度を取得し、ハザードごとの重み付け関数で実効化(Eeff, Leff)。UVでは光学系の迷光・感度校正、可視〜IRでは受光器の線形性を確認。
  3. 時間基準(time base):各ハザードに評価時間が規定。連続光はE×t(またはL×t)で判定する場面が多く、パルス単パルス繰返しを区別して評価。
  4. パルス/変調:高ピーク・短パルス(LEDフラッシュ、パルス駆動UV)は網膜熱青色光で厳しくなる。波形取得(サンプリング周波数/帯域)と熱/化学の時間重みの適用を忘れない。
  5. 判定ロジック:各ハザードでRG境界と比較し、最も高いRGを最終分類とする。GLS用途はIEC/TR 62778の補助指標(KB,vなど)も活用可。

4. 最新動向:IEC 62471-5/-6の押さえどころ

4.1 IEC 62471-5(2015)—イメージプロジェクタ

  • 射出瞳を見かけ光源とみなす幾何、αの扱い、試験距離の指定が特徴。
  • 製造者への要求(ユーザー情報、表示、保護手段)が整理され、製品規格として参照価値が高い。

4.2 IEC 62471-6(2022)—UVランプ製品

  • UV製品リスクグループ(UV-RG)ユーザー情報/ラベリング保護方策を具体化。UV-C(殺菌)や硬化・露光装置など、UVが主目的の製品に直接適用可能。
  • 国内JIS化の動向に関わらず、安全設計・ラベリングの先取りで市場事故・問い合わせ対応を強化可能。

5. 殺菌ランプ関連の注意(JIS C 7605)

  1. 低圧水銀の殺菌ランプ(JIS C 7605:2011)は、構造・性能・表示の製品規格。JIS C 7550(光生物学的安全性)は横断規格であり、両者は役割が異なる
  2. 殺菌ランプを含む装置では、光学遮蔽、インタロック、運転モード制限、警告表示など、製品規格側の要求も併せて満たす必要がある(UV漏れの試験・表示文言の適正化を含む)。

6. 実務チェックリスト(設計・評価・表示)

6.1 設計段階

  • RG目標の設定(RG0/RG1):光束/電流、拡散板、フォーカス/開口でLB/EBを低減。
  • UV対策:不要帯域はフィルタ、材料選定(透過/蛍光)、迷光低減。
  • 安全距離の設計(ハウジング、離隔ガード)。

6.2 測定段階

  • 校正有効な分光放射測定(UVは迷光補正、可視は線形性)。
  • 見かけ視角αの確定と小形/大形光源の正しい選択。
  • パルス条件(繰返し、デューティ、ピーク)を波形で実測・評価。

6.3 表示・文書

  • 取説に使用者情報(安全距離、許容露光、ユーザー群、保護具)を明記。
  • 製品ラベルにRG/UV-RG注意文ピクトサービス要領
  • 評価記録(測定図/写真、シリアル、計算シート、判定根拠)を整備。

7. まとめ

JIS C 7550は、IEC 62471の枠組みを国内展開した横断規格であり、2014追補による用語整備と2019年の名称読み替え以降、技術要求は堅調に運用されています。近年はIEC 62471-5/-6が個別製品領域(プロジェクタ、UV製品)で要求を具体化しており、国内JISの動向に先駆けた設計・評価・ラベリングの先取りが実務的なリスク低減につながります。評価は最悪条件で幾何・時間・分光を正しく定義し、小形/大形の切替、パルスの扱い、ユーザー情報の整備まで含めて一貫性を確保することが肝要です。

参考文献

専門用語の解説

実効放射照度(Eeff)/実効放射輝度(Leff
分光放射量にハザード固有の重み関数を掛けて積分した量。評価時間tと組み合わせて判定する。
見かけ視角(α)
観測者から見た光源の角度的広がり。小形/大形の判断基準。
危険距離(Hazard Distance)
暴露量が許容値に等しくなる距離。IEC/TR 62471-2で扱う。
RG(Risk Group)
光生物学的安全性のリスク分類(RG0/1/2/3)。UV製品ではIEC 62471-6でUV-RGを導入。
GLS(General Lighting Service)
一般照明用途。青色光評価の補助としてIEC/TR 62778の概念(KB,vなど)を用いる。

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