LiDARセンサーのアイセーフレーザー設計|IEC 60825-1

LiDARの「アイセーフレーザー」という呼び方の位置づけを整理しつつ、波長・走査方式ごとの曝露条件の違いや単一故障時の安全確保の考え方を解説します。クラス分類の数値基準には立ち入りません。

この記事の監修

山西 幸男

旭光通商株式会社 取締役

山西 幸男

光学技術製品の国際貿易におけるリーディングエキスパートとして、多くの日本企業の海外市場への進出をサポートしてきました。光安全性リスク評価の分野においても深い知識を有し、製品の国際基準適合性を確保するためのコンサルティングサービスを提供しています。

この記事でわかること

LiDAR(Light Detection and Ranging、レーザー光の反射を用いて距離を測る技術)は、自動運転車両、産業用ロボット、民生電子機器など幅広い分野で採用が進んでいます。測距に用いるレーザー光は、IEC 60825-1(レーザー製品の安全性に関する国際規格)に基づく安全性の考え方と関わりますが、単純なクラス分類だけでは捉えきれない論点が存在します。

この記事では、LiDARの「アイセーフレーザー」という呼び方(IEC 60825-1が定めるクラス名称の中にこの語はなく、業界で慣用的に用いられている呼称とされます)を切り口に、波長選択・走査方式・単一故障時の挙動・複数センサー搭載時の重畳曝露といった、LiDAR特有の設計論点を整理します。レーザークラス分類そのものの基礎知識や、光学測定・校正の具体的な手順については、本記事では深入りせず、関連する既存記事へ譲ります。

この記事で扱う範囲

  • LiDARの波長選択(905 nm・1550 nm等)と眼の曝露リスクの考え方の違い
  • 「アイセーフ」という表現とレーザークラス分類との関係
  • 走査方式(メカ走査・MEMS・OPA・フラッシュ)ごとの曝露条件の違い
  • 単一故障時の安全確保、複数センサー搭載時の重畳曝露という設計論点
  • 車載・民生機器としての実装制約

この記事で扱わない範囲

  • レーザークラスの数値的判定基準(AEL・MPE等)の詳細
  • 校正頻度・校正証明書の発行・校正手順の具体的な解説
  • 医療機器向けの安全設計要件(インターロック仕様・保護メガネのOD値設計等)
  • IEC 60825-1のLiDARへの適用可否の断定、規格の版・適用範囲条項の解釈
  • 自動運転関連法規(道路運送車両法等)への適合可否の判断
  • NOHD(公称眼障害距離)等の数値計算式、特定メーカー・特定製品の性能比較

1. LiDARセンサーとレーザー光安全性の関係

1.1 LiDARが用いる光の種類と、光安全性が論点になる理由

LiDARは、レーザー光を対象物に照射し、反射光が戻るまでの時間や位相を測定して距離を求めるセンサーです。測距には近赤外域のレーザー光が用いられる例が多いとされ、可視光と異なり肉眼では光の存在を直接確認しにくいという特徴があります。

この特徴は、光安全性を検討するうえで重要な前提になります。可視光であれば、まぶしさによる回避反応(瞬きや顔をそむける動作の総称)がある程度働く場面もあるとされますが、可視光であっても回避反応が常に生じるとは限らないとの指摘があり、近赤外光では視認しにくいためその前提自体が成り立ちにくくなります。いずれにせよ、利用者の反応を安全設計の前提として扱うことは適切でないと考えられます。そのため、LiDARの光安全性は、利用者の反応に頼らず、光源側の設計(出力・走査条件・光学系)によって確保する発想が基本になります。

なお、LiDARへのIEC 60825-1の適用関係そのもの(規格の版・適用範囲条項がLiDARを名指しで含むか等)は、本記事では特定していません。以下の記述は、いずれも二次情報(メーカー資料・業界メディア等)に基づく一般的な理解の整理であり、規格の解釈を示すものではありません。実務判断の際は、規格原文および所管省庁・規格団体の公表情報をご確認ください。本文中の表では、一次情報での裏取りができていない項目に(要確認)を付しています。

1.2 波長選択(905 nm・1550 nmなど)と眼の曝露リスクの違い

LiDARで用いられる代表的な波長帯として、905 nm帯と1550 nm帯がしばしば挙げられます。両者は、眼球内での光の吸収・到達挙動の考え方や、検出器の技術、コスト構造などの点で異なる特徴を持つとされています。

両者の違いを理解する枠組みとして、光生物学では網膜まで到達しうる波長域(おおむね400〜1400 nm、網膜危険域と呼ばれます)が用いられます。905 nm帯はこの範囲の内側、1550 nm帯は外側にあたり、眼のどの部位が曝露を受けるかが異なります。ただし、これは「危険域の外なら安全」を意味するものではなく、曝露を受ける部位が網膜から前眼部へ移ることを示すにすぎません。以下の表は、これらの一般的な設計上の考え方を整理したものです。

波長 網膜到達性の考え方 検出器 一般的なコスト感 天候・環境影響 留意点
905 nm帯 可視域に近い波長であり、角膜・水晶体を透過して網膜に到達しうる帯域として扱われることがあるとされる(要確認) シリコン系(Si)検出器が用いられる例があるとされる 検出器・光源とも比較的入手性が高く、コストを抑えやすいとされる 悪天候(雨・霧等)時の性能傾向が波長帯によって異なるとされ、詳細評価が必要とされる(要確認) 網膜到達性が問題になりうる帯域として、出力・走査条件の設計がクラス区分に直結しやすいとされる(要確認)
1550 nm帯 網膜危険域(おおむね400〜1400 nm)の外側にあたり、網膜まで到達しにくい帯域とされる。ただし吸収は前眼部(角膜・前房水)に集中するため、前眼部への影響という別の観点が残り、安全側での個別評価が必要とされる(要確認) InGaAs系等、905 nm帯とは異なる検出器技術が用いられる例があるとされる 検出器技術の特性上、905 nm帯と比べコストが高くなる傾向があるとされる 波長帯により悪天候時の挙動が異なるとされる報告があるが、条件により結果が異なるため一律の優劣は判断できないとされる(要確認) 網膜到達性の観点のみで「安全」と判断せず、前眼部への影響を含めた個別評価が必要とされる(要確認)

(要確認)の項目は一次情報での裏取りができていません。規格原文等でご確認ください。 上表は905 nm帯・1550 nm帯の一般的な設計上の考え方を整理したものであり、出力値等の数値的な判定基準(AEL/MPE等)には立ち入っていません。「1550 nmは網膜に到達しないため安全」という単純化は避け、前眼部への影響を含めた個別評価が必要である点に留意してください。実際の設計判断は、光源・検出器メーカーの仕様書および該当規格の一次情報に基づき行ってください。

天候・環境影響については、出典によって説明が分かれており、散乱に強いとする説明と、雨天・降雪時の透過性が劣るとする説明が併存しています。本記事では、いずれか一方の優劣を断定することは避けます。また、いずれの波長帯であっても、出力条件次第ではクラス4に該当しうるとされ、波長だけで安全性の水準が一律に決まるものではない点も押さえておく必要があります。

2. アイセーフ設計とレーザークラス分類の要点

IEC 60825-1が定めるクラス名称に「アイセーフ」という区分はなく、業界で慣用的に用いられている呼称と理解されています。1550 nm帯が「アイセーフ」と呼ばれる背景には、光が主に角膜や前房水で吸収され、感受性の高い網膜まで到達しにくいという考え方があるとされます。しかしこれは、吸収を担う前眼部(角膜等)側に曝露が集中することの裏返しでもあり、出力に関わらず安全であることを意味するものではありません。高出力・高ピーク出力(Qスイッチ動作等)の設計では、角膜損傷等を招きうるとの指摘もあり、こうした設計ではクラス4に該当しうるとされています。業界向けの解説記事等でも、1550 nm帯を一律に「eye-safe」と表現することへの慎重論が示されているとされます。

なお、規格の枠組みは国・地域によって異なる場合があります。米国では21 CFR 1040.10(連邦レーザー製品性能基準)がレーザー製品を対象としており、クラス表記がI・II・IIIa・IIIb・IVとされ、IEC体系のクラス表記(1・1M・2・2M・3R・3B・4等)とは異なる可能性があります。IEC 60825-1の指定版に適合していれば重複した執行を行わない方針が示されているとされますが、LiDAR製品固有の位置づけ・除外規定の有無は本記事執筆時点で確認できていません。また、自動運転車両に関連するISO 26262(道路車両の機能安全)は、光放射としての安全性を扱うIEC 60825-1とは評価の軸が異なる規格であり、両者に規格上の直接的な参照関係があるかどうかも確認できていません。「セットで要求される」というような理解は避け、それぞれ別の観点の規格として捉えることが適切と考えられます。本節で触れた各規格・法令の条項内容は、いずれも原文で確認できていません。輸出先の規制対応を検討する際は、規格原文および所管当局の公表情報をご確認ください。

このほか、IEC TR 60825-14という技術報告書(TR、規格=ISとは異なる位置づけの文書)があり、使用者・雇用者向けの安全管理原則やリスク評価のガイダンスを扱うとされています(詳細は後掲の用語解説を参照)。本記事では深入りしませんが、社内の安全管理体制を整備する際の参考情報として存在を押さえておくとよいでしょう。

2.1 「アイセーフ」という表現とクラス分類の関係

レーザークラスの基本的な区分(1・1M・2・2M・3R・3B・4等)そのものの解説は、レーザークラス分類の基礎はこちらで解説していますので、あわせてご参照ください。ここでは、LiDAR用途を想定した場合の各クラスの位置づけを整理します。

クラス 一般的な特徴 眼への曝露リスクの考え方 LiDARでの位置づけ(想定) 設計・運用上の留意点
クラス1 製品として想定される使用条件のもとでは、追加の保護手段を前提としない水準に収まるとされる区分 通常操作の範囲内では眼への曝露リスクは小さいと考えられている区分とされる 「アイセーフ」と称されるLiDAR製品の多くはこの区分を目標に設計されるとされるが、内蔵光源自体がこの区分に該当するとは限らず、走査条件・光学系(拡散板・開口)・出力監視を含めた製品全体としての設計により実現されるとされる(要確認) 使用者側での保護具着用等は通常前提とされない区分だが、表示・使用者向け情報の提供といった製造者側の要求は残るとされる。また、単一故障時にもこの区分を維持できる設計(フェイルセーフ)や、保守時に内部の放射へ接近しうる構成での対策が重要とされる(要確認)
クラス1M 裸眼で見る限りはクラス1と同水準にとどまるが、ルーペや望遠鏡等の拡大光学系を通した観察という使用形態を想定すると、その水準を超えうるとされる区分 裸眼観察を前提とした場合のリスクは小さいが、光学機器を介した観察条件は別途考慮が必要とされる 受光・送光光学系の構成によってはこの区分に相当しうるとされるが、LiDAR製品での適用例は一次情報での確認ができていない(要確認) 光学機器を用いた近接観察・調整作業時の取扱いについて別途確認が必要とされる
クラス2 まぶしさによる回避反応が偶発的な短時間の曝露に対する一定の緩和要因として位置づけられているとされる、可視域(おおむね400〜700 nm)専用の区分 瞬き反応が常に生じるとは限らないとの指摘もあり、意図的な注視は避ける必要があるとされる 主要なLiDAR波長帯(905 nm・1550 nm等)は可視域外であり、この区分の前提(可視光であること)には当てはまらないと考えられる。ただし、位置合わせ用の可視インジケータ・ガイド光を別途搭載する構成があれば、その光源については別途この区分が検討される可能性がある(要確認) LiDAR本体の測距用光源をこの区分で捉えることは適切でないと考えられるが、可視ガイド光を併載する場合はそちらを別途評価する必要があるとされる
クラス2M クラス2の考え方に、拡大光学系を通した観察という使用形態のリスクが加わる区分 クラス2と同様、可視域を前提とする区分とされる クラス2と同様の理由(可視域を前提とする区分であること)により、主要な測距用光源には当てはまらないと考えられる 可視ガイド光を併載する場合、光学機器での観察時の取扱いについて個別確認が必要とされる
クラス3R 直接光路をのぞき込むような使用形態では曝露の水準が上がりうる一方、クラス3Bほど厳格な取扱いまでは求められないとされる中間的な位置づけの区分 直接光路内観察を避けることが基本とされる 内蔵光源としてはこの区分に相当する例があるとされるが、製品として分類される区分は筐体・光学系(拡散板・開口)・走査条件・出力監視設計により異なるとされ、一律に判断できない(要確認) 直接光路内観察の回避、光学系・走査条件を含めた曝露条件の個別評価が必要とされる
クラス3B 直接光路内での使用形態は避けるべきとされ、内蔵される光源単体としてはこの水準に相当する構成がLiDARでもみられるとされる区分 直接光路内観察は危険とされる 内蔵されるレーザーダイオード単体を取り出して測ればこの区分の水準に相当する例があるとされる。ただしクラス分類は、人が接近しうる放射(accessible emission)に基づいて製品単位で行われるとされ、筐体・光学系・走査条件によって、製品としての分類は内蔵光源単体の水準より低くなる場合があるとされる(要確認) 内蔵光源単体の水準と、製品として分類・表示される区分を混同しないよう確認する必要があるとされる。組込みレーザー製品では、保守・調整時に高い水準の放射に接近しうる場合があり、単一故障時の安全設計(出力監視・走査停止等)とあわせて確認が必要とされる(要確認)
クラス4 直接光路・拡散反射光いずれの使用形態でも回避が求められるとされる、想定される出力水準が最も高い区分 直接光路・拡散反射光いずれも危険とされ、皮膚障害や可燃物の発火といったハザードも伴うとされる区分 民生・車載・屋内ロボット向けLiDAR製品として、この区分がそのまま製品表示に用いられる例は想定されにくいとされるが、開発・評価段階の高出力光源や特殊用途での取扱いは個別確認が必要とされる(要確認) 該当する場合は筐体・インターロック等による厳重な封じ込め設計が前提になるとされる

(要確認)の項目は一次情報での裏取りができていません。規格原文等でご確認ください。 上表は各クラスの一般的な考え方を、LiDAR用途を想定して整理したものであり、出力値・波長等の数値的な判定基準(AEL等)には立ち入っていません。先述のとおり「アイセーフレーザー」は規格上のクラス名称ではなく、業界慣用の呼称であり、具体的にどのクラスがこれに該当するかは製品の出力・波長・使用条件により異なります。実際のクラス判定は、機器メーカーが示すクラス表示・仕様書、および該当規格の一次情報(IEC 60825-1等)に基づき個別に確認してください。規格の版によっては特定用途向けの区分(クラス1C等)が加わるとされ、区分の全体像は版ごとに一次情報でご確認ください。

「eye-safe=クラス1」と単純に等号で結ぶことは避けるべきと考えられます。波長だけでクラスが決まるわけではなく、出力・パルス条件・光学系・走査条件など複数の要素を踏まえた製品全体としての設計・評価が必要になります。さらに、ファイバーレーザー型のLiDARでは、増幅用の励起光の漏出リスクも指摘されています。励起光の波長は構成により異なりますが、網膜危険域(おおむね400〜1400 nm)の内側に入りうるとされ、その場合は1550 nmの主光源とは異なる観点での評価が必要になります。

3. 走査方式ごとに異なる曝露条件

LiDARの走査方式には、機械的にミラーやプリズムを回転・揺動させる「メカ走査」、微小な可動ミラーを用いる「MEMS走査」、位相制御によりビームを電子的に操作する「OPA(光フェーズドアレイ)」、走査機構を持たず面全体に一括で照射する「フラッシュ」方式などがあるとされます。走査は、特定の方向にビームが留まる時間(曝露時間)を短くする要素として語られることがありますが、走査停止時や故障時を含めた曝露条件の評価が必要であり、走査方式が曝露リスクを一律に低減すると断定することはできないとされています。

3.1 走査方式別の照射パターンと曝露評価上の着眼点(比較表)

以下は、走査方式ごとの照射パターンの特徴と、曝露評価上の着眼点を整理したものです。いずれも一般的な傾向を示す整理であり、実際の評価は個々の製品の設計・仕様に基づく必要があります。

方式 照射パターンの特徴 曝露評価上の着眼点 故障・停止時に想定される変化
メカ走査 回転・揺動するミラーやプリズムにより、ビームを機械的に走査するとされ、特定方向への滞留時間は走査速度に依存するとされる 走査速度・走査範囲によって、単一方向への平均的な曝露量の考え方が変わるとされ、走査中の一時的なピーク放射を受光角・測定距離の条件下で平均化して評価する考え方があるとされる(要確認) 可動部の停止(モーター停止・機構の固着等)により、特定方向にビームが静止した状態が生じうるとされ、単一故障状態を想定した評価が必要とされる(要確認)
MEMS走査 微小な可動ミラーによりビームを高速に走査する方式とされ、メカ走査に比べ小型・高速な走査が可能とされる 走査速度・振動特性が製品ごとに異なるとされ、共振周波数付近での挙動を含めた評価が必要とされる(要確認) ミラーの破損・駆動停止によりビームが一方向に留まる状態が生じうるとされ、メカ走査と同様に単一故障時の評価が求められるとされる(要確認)
OPA(光フェーズドアレイ) 可動部を持たず、位相制御により電子的にビーム方向を操作する方式とされる 可動部がないことが、機械的な走査停止による特定方向への曝露リスクの考え方をそのまま当てはめられない要因になるとされ、電子制御系の異常時の挙動を個別に評価する必要があるとされる(要確認) 位相制御が失われた場合、ビームの方向がずれるだけでなく、回折次数(0次光等)に電力が集中する状態が生じうるとされる。可動部を持たない方式であっても、特定方向へ出力が集中する故障シナリオは想定する必要があり、機械的故障とは異なる観点での評価が必要とされる(要確認)
フラッシュ 走査機構を持たず、面全体に一括して照射する方式とされる 走査による曝露時間の分散という考え方が当てはまらない一方、拡散板やエミッタアレイにより発光面が広がる構成では、眼から見た見かけの光源の大きさ(視角)が点光源とは異なる扱いになりうるとされ、これが評価上の着眼点になるとされる。単純に「照射面積で出力を割る」といった考え方で判断できるものではなく、見かけの光源サイズをどう扱うかを含めて個別評価が必要とされる(要確認) 走査の「停止」という概念自体が他方式と異なり、出力監視・自動停止機構の設計が評価上重要になるとされる

(要確認) の項目は一次情報での裏取りができていません。実務判断の際は、規格原文および所管省庁・規格団体の公表情報をご確認ください。

いずれの方式についても、通常運転時の照射パターンだけでなく、故障・停止時にどのような曝露条件になりうるかを含めて評価する視点が重要とされています。走査方式そのものの光学設計手法は本記事の対象外とし、光安全性の論点に絞って整理しました。

4. 単一故障時の安全確保という設計論点

IEC 60825-1には、単一故障状態(single fault condition、機器を構成する部品や機構のうち一つが故障した状態)を考慮したクラス判定の考え方があるとされています。通常運転時にはクラス1相当の設計であっても、走査機構の停止や出力制御回路の異常といった単一の故障が生じた場合に、特定の方向へ高い出力が持続的に照射される状態になりうるかどうかは、独立した評価対象になると考えられます。

LiDARの場合、走査によって曝露時間を分散させる設計が用いられることが多いため、走査停止という単一故障のシナリオは特に重要な検討対象になるとされています。出力監視回路によって異常を検知し、自動的に光源を停止させる、あるいは出力を制限するといったフェイルセーフの考え方が、製品として分類される区分を維持するうえで重要になるとされます。

4.1 故障シナリオ別に想定される曝露条件の変化(比較表)

以下は、LiDARで想定されうる代表的な単一故障シナリオと、曝露条件に生じうる変化を整理したものです。いずれも設計検討の着眼点を示す整理であり、規格上の要求事項として示すものではありません。

想定される故障シナリオ 曝露条件に想定される変化 設計上の確認観点
走査機構の停止・減速 走査によって分散していた曝露が特定方向に集中し、その方向での滞留時間が延びうるとされる 走査停止を検知する手段があるか、検知から光源停止・出力制限までの応答が設計されているか
光源駆動回路の異常(出力増大) 設計上想定していた出力水準を超えた放射が生じうるとされる 出力監視回路の有無と、監視系が想定する異常範囲。上限を超えた際の遮断動作が規定されているか
光学系の破損・脱落(拡散板・レンズ) 発光面の広がりや開口条件が変化し、眼から見た見かけの光源サイズが設計時の前提から外れうるとされる 拡散板・レンズが脱落・破損した状態を想定した評価を行っているか。部品の固定方法・破損検知の要否
出力監視系そのものの失陥 異常を検知する仕組み自体が働かず、他の故障を検出できない状態になりうるとされる 監視系の自己診断機能の有無。監視系の故障を単一故障として扱う設計になっているか

上表は故障シナリオの整理であり、どこまでを「単一故障」として想定すべきかの判断基準を示すものではありません。故障モードの網羅性や具体的な評価手法は、規格原文の該当条項に基づく個別の検討が必要であり、本記事では一般的な考え方の紹介にとどめます。故障モード影響解析(FMEA等)の実施状況や、出力監視回路の設計資料は、単一故障時の安全性を確認するうえでの手がかりになると考えられます。なお、単一故障状態の定義および該当条項は本記事では特定していません。規格原文でご確認ください。

5. 複数センサー搭載時の重畳曝露という論点

車載・民生機器では、複数のLiDARユニットを同一車両・機器に搭載する構成や、LiDARとカメラ用照明など他の光源を併用する構成が見られます。個々のセンサーが低リスクのクラス(クラス1相当等)で設計されていたとしても、複数の光源が同一の視点・同一の方向に重なって入射する条件が生じた場合、その重畳(重なり合った状態)をどのように評価するかは、個別の検討課題になると考えられます。

検討の起点になるのは、複数の光源が眼から見て同じ方向にあり、同一の測定条件(測定開口・受光角)の範囲内に重なって入るかどうかという点だとされます。視野内で十分に離れた方向から入射する光源については、単純加算の対象になるとは限らないとされ、どちらのケースにあたるかを配置から確認することが出発点になります。

以下は、複数センサー搭載時に重畳が想定される代表的なパターンと、確認の着眼点を整理したものです。

5.1 搭載パターン別の重畳確認ポイント(比較表)

搭載パターン 重畳が想定される条件 確認の着眼点
複数LiDARの視野重複 隣接・対向配置された複数ユニットの走査範囲が重なり、同一方向から同時に光が入射しうる場合 各ユニットの設置角度・走査範囲図から、視野が重なる方向・距離を特定できるか
LiDAR+カメラ用近赤外照明 LiDARの測距光と、別用途の近赤外照明が同一方向に向けて併用される場合 波長帯が近い場合、両者を切り分けずに評価する必要があるかどうか
車両前後左右への複数ユニット配置 車両の異なる面に搭載されたユニットの照射範囲が、特定の方向・距離で交差する場合 車両全体の配置図をもとに、交差が生じる方向・距離を洗い出せているか
同一筐体内の複数エミッタ 単一の筐体内に複数の発光素子・チャンネルを持つ構成で、出射位置がごく近接している場合 個々のエミッタを独立事象として扱ってよいか、筐体単位でまとめて評価すべきかの整理ができているか(要確認)

(要確認) の項目は一次情報での裏取りができていません。実務判断の際は、規格原文および所管省庁・規格団体の公表情報をご確認ください。

上表は搭載パターンの整理であり、重畳時の出力が加算されると断定するものではありません。実際の評価は、規格上の取扱いを含め、機器メーカー・試験機関への確認を通じて個別に行う必要があります。

重要なのは、複数光源の出力を単純に足し合わせれば評価できると断定しないことです。同一視点への複数光源の入射条件をどう評価するかについては、規格上の取扱いも含めて一次情報での確認が済んでいません。システム全体の光学配置(各センサーの設置位置・照射方向・視野の重なり)を把握したうえで、必要に応じて試験機関へ照会することが実務上の選択肢になります。複数光源の重畳を規格上どう取り扱うかについては、本記事では特定していません。規格原文および試験機関へご確認ください。

6. 車載・民生機器としての実装制約

車載LiDARや民生電子機器に組み込まれるLiDARは、屋外の温湿度変化、振動、経年劣化といった、実験室内の評価条件とは異なる環境で長期間使用されることが前提になります。こうした環境要因が、当初想定していた曝露条件をどの程度変化させうるかは、設計段階で考慮すべき論点になると考えられます。

また、想定される利用者や設置環境によっても評価の前提は異なります。車載(前方監視・周囲監視等)、屋内ロボット、スマートフォン等の民生電子機器では、想定される観察距離や、利用者が限定されたオペレーターか、子供を含む不特定多数かといった条件が異なり、これらが評価の前提条件に影響しうるとされています。

6.1 環境要因・経年変化が曝露条件に与えうる影響(設計時の考慮点)

光学系の透過率や反射率、筐体の遮光性能は、温湿度・振動・紫外線曝露などの環境要因によって経年的に変化しうると考えられます。当初の設計時点でクラス1相当を想定していたとしても、光学部品の劣化や汚れの付着によって出射条件が変化し、想定していた曝露条件から外れる可能性は否定できません。

こうした経年変化を評価するための光学測定・校正の考え方については、LiDARの光学測定・校正についてはこちらで解説していますので、具体的な測定手順や校正の実務についてはそちらをご参照ください。本記事では、環境要因が曝露条件に影響しうるという設計上の論点提起にとどめます。

7. 自社LiDAR製品で確認しておきたいチェックポイント

ここまでの内容を踏まえ、自社のLiDAR製品を検討・評価する際に確認しておきたいポイントを整理します。

確認カテゴリ 具体的な確認項目 なぜ重要か 確認の手がかり
光源仕様(波長905 nm/1550 nm・パルス条件) 使用波長帯(905 nm・1550 nm等)、パルス幅・繰り返し周波数・平均出力といったパルス条件が、想定するクラス区分の前提と整合しているか 波長・パルス条件によって眼球内での吸収・到達挙動の考え方が異なるとされ、クラス判定の前提条件になるとされるため(要確認) 光源メーカーの仕様書、光学設計データ、社内試験データ
走査方式(メカ走査・MEMS・OPA・フラッシュ)と曝露条件 走査方式(機械式・MEMS・OPA・フラッシュ照射等)による、単一方向への曝露時間や走査停止時の挙動の違い 走査は曝露時間を短縮する要素として語られることがあるが、走査停止・故障時を含めた曝露条件の評価が必要とされ、走査方式が曝露リスクを一律に低減すると断定はできないとされるため 走査機構の設計仕様、故障時挙動に関する社内評価資料、規格の該当条項
故障時の安全(単一故障条件・出力監視) 単一故障状態(走査停止・光学系破損等)を想定した場合にもクラス区分の前提が維持されるか、出力監視・自動停止機構の有無 通常運転時のみでなく単一故障時の曝露条件も評価対象になるとされ、フェイルセーフ設計の有無が製品として分類される区分に影響しうるとされるため(要確認) 故障モード影響解析(FMEA等)資料、規格の単一故障条件に関する条項、出力監視回路の設計資料
光学系(レンズ・拡散板・開口) 送光光学系のレンズ・拡散板・開口条件が、ビーム広がり角・出射条件にどう影響するか 光学系の構成は、内蔵光源単体の水準と、製品として分類される区分との差を生む要因の一つとされるため(要確認) 光学設計図面、拡散板・開口の仕様書、光学系メーカーの技術資料
複数センサー搭載時の重畳 複数のLiDARユニットや他の光源(カメラ用照明等)を同一車両・機器に搭載する場合の、同一視点・同一方向への光の重なりの取扱い 複数の放射源が同一視点に入る条件の評価方法は個別検討が必要とされ、単純な出力の足し合わせで判断できるかは一次情報での確認が済んでいないため(要確認) システム全体の光学配置図、規格における複数光源の取扱いに関する条項、試験機関への照会
表示・ラベル・付属文書 製品本体または筐体内部のクラス表示・警告ラベル、取扱説明書・仕様書・適合宣言等の記載内容 表示・文書は受入確認・保守・輸出入時の実務上の出発点になるとされるため 製品本体のラベル、添付の取扱説明書・仕様書、適合宣言書
用途・設置条件(車載・屋内ロボット・民生機器) 車載(前方・周囲監視等)、屋内ロボット、民生電子機器(スマートフォン等)といった設置環境・想定利用者(不特定多数か限定されたオペレーターか)による評価条件の違い 想定される観察距離・利用者属性(子供を含む不特定多数か等)によって評価の前提が異なりうるとされるため 製品の用途仕様書、設置環境に関する社内リスクアセスメント資料、該当する用途別ガイダンス

(要確認) の項目は一次情報での裏取りができていません。実務判断の際は、規格原文および所管省庁・規格団体の公表情報をご確認ください。

上表はあくまで確認項目の整理であり、各項目の具体的な判定基準・数値は含んでいません。実際の評価・判定は、機器メーカーの仕様書、社内の試験データ、および該当規格の一次情報に基づき、個別に行う必要があります。

8. よくある質問(FAQ)

Q1: LiDARのレーザーはなぜ「アイセーフ」と呼ばれるのですか?

A1: 実務上は二つの異なる使われ方が混在しています。一つは、通常使用条件下でリスクが低いとされるクラス(クラス1等)に該当することを意図した呼び方。もう一つは、1550 nm帯のように網膜まで到達しにくい波長帯であることを指した呼び方で、こちらはクラスとは無関係に用いられることがあります。後者の意味で「アイセーフ」と表示された製品が、必ずしもクラス1に該当するとは限りません。呼称ではなく、製品のクラス表示と仕様書を確認してください。

Q2: LiDARの波長(905 nmと1550 nmなど)によって安全性の考え方は変わりますか?

A2: 眼球内での光の吸収・透過特性が波長によって異なるとされ、一般的な理解としては905 nm帯と1550 nm帯で考慮すべき観点が異なります。ただし、どちらが一律に「有利」かを断定することはできず、出力・パルス条件・光学系など他の要素も含めた個別評価が必要です。数値的な判定基準(AEL等)についても本記事では扱いません。

Q3: 複数のLiDARセンサーを同時搭載する場合、安全性評価で注意すべき点はありますか?

A3: 個々のセンサーが低リスクのクラスで設計されていても、複数の光源の視野が重複する条件下での曝露の扱いは、製品・搭載構成ごとの個別検討が必要と考えられます。出力を単純に加算すれば評価できると断定することは避け、システム全体の光学配置を踏まえた確認が必要です。光学的特性の測定・校正の実務については、校正・測定の実務についてはこちらで解説しています。

9. まとめ

LiDARセンサーの光安全性は、IEC 60825-1に基づくレーザークラスの考え方を土台としつつも、波長選択、走査方式ごとの曝露条件の違い、単一故障時の挙動、複数センサー搭載時の重畳曝露といった、LiDAR特有の設計論点を踏まえて検討する必要があります。先述のとおり「アイセーフレーザー」は規格上のクラス名称ではなく業界慣用の呼称であり、これをクラス1の保証と同一視することは避けるべきと考えられます。

波長・出力・走査方式のいずれか一つで安全性が決まるわけではなく、光源仕様・走査方式・故障時の挙動・光学系・複数センサーの重畳・環境要因といった複数の観点を組み合わせた個別評価が欠かせません。具体的なクラス判定や数値的な基準の確認、光学測定・校正の実務については、機器メーカーの仕様書や該当規格の一次情報、専門機関への確認をおすすめします。

10. LiDARセンサーの光学系の安全性評価に関するご相談

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参考文献

  • IEC 60825-1, Safety of laser products – Part 1: Equipment classification and requirements(国際電気標準会議。版数は本記事では特定していません)
  • JIS C 6802:2025(日本産業標準調査会/日本規格協会、IEC 60825-1の国内整合規格。2025年8月20日付で改正公示)
  • IEC TR 60825-14:2022, Safety of laser products – Part 14: A user’s guide(IEC、技術報告書)
  • 21 CFR 1040.10, Laser products(米国FDA/CDRH、連邦レーザー製品性能基準)
  • ISO 26262, Road vehicles – Functional safety(ISO)
  • 「アイセーフレーザー」の用語法に関する解説(辞書・メーカー技術用語集・技術解説サイト等の二次情報)

本記事の執筆時点では、上記の規格・法令の原文を直接参照できていません。書誌情報は二次情報(解説記事・メーカー資料・辞書サイト等)に基づく整理であり、条項の内容・版数・適用範囲を保証するものではありません。実務判断の際は、IEC・日本規格協会・FDA・ISO等が公表する原典をご確認ください。

専門用語の解説

用語 意味
IEC 60825-1 レーザー製品の安全性に関する国際規格。用途を限定せず、レーザー製品の分類と、表示・安全対策に関する要求事項を定めるとされる(要確認)
JIS C 6802 IEC 60825-1に対応する国内の整合規格(要確認)
レーザークラス レーザー製品を1・1M・2・2M・3R・3B・4等に区分する安全上の分類(要確認)
網膜危険域 光が網膜まで到達しうるとされる波長域(おおむね400〜1400 nm)を指す光生物学上の考え方。この範囲の外側であれば安全という意味ではなく、曝露を受ける部位が前眼部へ移ることを示す
アイセーフレーザー 通常使用条件下でリスクが低いとされる設計、または網膜まで到達しにくいとされる波長帯を指して用いられる業界慣用表現。規格が定める正式なクラス名ではないと理解されています(要確認)
単一故障状態(single fault condition) 機器を構成する部品・機構のうち一つが故障した状態を想定した評価の考え方(要確認)
重畳曝露 複数の光源からの光が同一の視点・方向に重なって入射する状態を指す考え方。本記事中の表現であり、規格上の定義用語ではありません
OPA(光フェーズドアレイ) 可動部を持たず、位相制御によって電子的にビームの方向を操作する走査方式とされる
MEMS走査 微小な可動ミラーを用いてビームを走査する方式とされる
IEC TR 60825-14 使用者・雇用者向けの安全管理原則やリスク評価のガイダンスを扱うとされる技術報告書(TR)。規格(IS)とは異なる位置づけの文書(要確認)

(要確認) の項目は一次情報での裏取りができていません。実務判断の際は、規格原文および所管省庁・規格団体の公表情報をご確認ください。

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